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相談事例集 |
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■相談事例25: 借家の明渡し要求及び敷金の返還請求
3年前入居したアパートは、築20年だ。半年前大家からトイレを水洗にしたり、駐車場を造るため建て替えに半年かかるので立ち退いてほしいと言われた。新築のアパートは家賃が高くなるので出ようと思うが、その際、畳、襖の修理代金は敷金から差し引くと言われた。納得できないので敷金は3カ月分全額返して欲しい。
(30歳代 女性) |
この相談は、二つの問題点を検討する必要があります。一つは、この大家の解約の申し入れ・更新拒絶は正当かということであり、他の一つは、敷金が担保する借家人の債務とはどの範囲まで含むのかということです。 今回は紙面の都合で、前段について検討することとし、後段については次回検討します。 大家が、借家契約の更新拒絶をするには、「借家人への通知」と「正当事由の存在」することが必要です。 まず通知ですが、借家期間の定めがあるときは、期間満了の1年前から6カ月前までの間に更新を拒絶する旨の通知をしなければならず(借地借家法26条1 項)、借家期間の定めがないときはいつでも解約の申し出をすることができます。解約となるのはどちらも6カ月後になります(同27条1項)。 そして、どちらの場合も大家には正当事由が存在することが必要です(同28条)。この場合の正当事由とは、社会通念上、賃貸家屋の明渡しを認めることが妥当と言える理由のことで、具体的には、次の項目を検討して判断されます。
1. 大家と借家人のどちらがより建物の使用を必要としているか。
2. 借家契約に関する従前の経過(契約時点や入居中の状況、権利金や更新料等の授受の有無や金額)
3. 借家の利用状況
4. 借家の現状(老朽化、防災上の危険性、周辺地域の土地の利用状況等)
5. 1) 〜 4) 間での補充としての立ち退き料の提供
6. その他(借家の信頼を損なうような大家による契約違反行為の有無) この相談に類似した過去の裁判例を調べてみたところ、大家の自己使用の必要性に正当事由が認められた事例( 1) のケース)として「賃貸建物を取り壊して駐車場に使用する場合」(昭和39年8月6日宇都宮地裁判決)があり、敷地の高度利用を目的とした解約申し入れに正当事由が認められた事例( 3)、 4)、 5) がからんだケース)として、「建物の老朽化がかなりすすんでいる場合、大家が解約申し入れを行うに際し、立ち退き料を提供しているとき」(平成元年9月2 日東京地裁判決)がありました。
以上のことから、この相談の場合、正当事由だけでみた大家の主張が認められる可能性は五分五分という感じですが、家屋を取り壊すといいながら立ち退き料は提供せず、逆に畳、襖の修理代を要求していることを考慮すると、大家の主張する正当事由には問題があるのではないかということを相談者に伝えました。 |
借家契約については、大家と借家人とでは圧倒的に大家優位の場合が多く、借家人は異議を述べたくても、「そんならあなたに借りていただかなくても結構です。他にいくらでも借りたいという希望者はおられますから」ということで一方的に契約更新を拒否されることが考えられます。 良好な住居は、消費者にとって不可欠の生活基盤ですから、借地借家法を有効に活用できるか否かは、住生活の豊かさを左右する一助になることは疑いありません。 何かおかしいと思ったときは、遠慮なくご相談ください。 |
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