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相談事例集 |
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■相談事例38: 現物まがい商法
平成9年1月頃、雑誌で「黒毛和牛の飼育預託」を募集していることを知り、契約した。契約条件は、「現金50万円を金利5%で2年間投資し、事業者はその出資金で黒毛和牛を飼育し、2年後に55万円を現金で顧客に返金する」というものだった。しかし、満期が来ても事業者は元利金55万円を返金しようとせず、半年ごとに、返金できない事情を記載した書面を送付してくるのみである。約束を守らないので返金してもらいたい。
(40歳代 女性) |
この事業者は、相談者への返済を滞らせているにもかかわらず、他方で新たに募集を行い、「市場の価格変動はありますが、過去の実績は順調です」と事実と異なる宣伝をしていましたので、その点を指摘し、場合によっては監督官庁の実態調査を要請するとの書面を送付したところ、満額返金に応じました。この種の事業者はその後ほとんどが経営に行き詰まり倒産しているのですが、この相談の場合、事業者にまだ返金の余力があったのが幸いでした。 |
今から丁度20年くらい前、「豊田商事事件」という高齢者の預貯金を食い物にする消費者トラブルが発生しました。被害に遭った高齢者3万人、被害金額2千億円ともいわれる大事件でした。 その時駆使された商法が「純金ファミリー契約証券商法」といわれています。具体的には、純金の様々な有利性を説き、顧客が純金を買う気になったところで、「純金ファミリー契約を締結して当社がその金を預かることにすれば、年10%の賃借料を先払いします。また、その賃借期限がくれば、純金はお返ししますから、あなたは賃借料と金の値上がり分とで二重に儲かります」といって契約させるものでした。しかし、実際には業者は純金を購入せず、集めたお金は事業の拡大という名目で、湯水のように蕩尽していたのです。 このように、ある商品が現に存在するかのように装って商品の購入契約を締結させ、その契約の際巧みなセールストークでその商品を証券などとすりかえる契約を行い、購入者には「証券」と証する単なるペーパーしか交付しない、という商法を「現物まがい商法」又は「ペーパー商法」といいます。 豊田商事事件が発生するまで、この種悪徳商法を規制する適切な法律がなかったところから、昭和61年に急きょ制定されたのが「商品預託取引業法」という法律です。この法律が制定されてからは、トラブルが発生する都度、適用対象(特定商品又は施設利用権)が政令で追加指定され、法の網をかぶせて規制することができるようになりました。 たしかに、今回の「和牛預託」に関する相談のように、政令で指定される前に締結された契約については法令を全面的に適用することはできません。しかし、解決の指針が事前に法定されているだけでも紛争解決へ向けての作業はうんと楽になります。 ところで、この「現物まがい商法」という悪徳商法は、「消費者被害とは何か」ということについて大きな論争をもたらしました。 豊田商事事件において、被害が社会的な広がりを見せ始めた時点では、被害にあった高齢者は単なる「欲ぼけ」、「利殖商法」の失敗者ではないのか、という意見もかなり有力だったのです。 しかし、その後事件の全貌が究明されていくにつれ、これは日本の高齢社会の問題を解明する究極の消費者問題であることが明らかになりました。記録によれば、高齢者が狙われた理由は二つ。一つは、若い時から働き続けて自分のためにお金を使うことを知らず、かといって余生を考えれば費消もできず、当面は利用目的のない資金が高齢者の手元で眠っていたことです。二つ目は、高齢者の孤独が狙われたのです。被害者のほぼ半分近くが一人暮らしであり、老夫婦のみの世帯を加えれば過半数を超えています。最初に電話をして訪問の予約をとるテレホンレディの言葉巧みな話しかけに応じてしまったのも、その後来訪したセールスマンが「おばあちゃん」と親しげに話しかけ、若い頃の自慢話をさせ、肩を揉み、庭掃除をし、添い寝までしたセールスマンに心を許したのも寂しさ故でした。 あれから20年、手段を選ばない悪徳業者は後を絶ちません。あなたの周囲の年金世帯の資産の保護と孤独対策が求められています。 |
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