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相談事例集 |
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■相談事例45: 屋根工事
一昨年、販売員が「屋根を見せて欲しい」と訪ねて来た。「見るだけなら」と思い見てもらったところ、「瓦の下地が悪くなっている。セメント瓦自体がおかしい。雨漏りしないよう塗装と下地工事をした方がいい」と言われた。「13年前に瓦の補修をしているから必要ない」と断ったが長時間にわたり勧められ、仕方なく契約した(129万円)。しかし、昨年の台風の後雨漏りするようになったので、「工事ミスではないか」と苦情を伝えたが、事業者はミスを認めようとしないので、やむなく新たに契約し補修した。
(70歳代 男性) |
特定商取引法の「訪問販売」で定められた法定書面の記載事項に不備があること、専門家も工事の内容を不要・不急のものと診断していることから、その修繕を必要とする理由の中に不実の告知があること、退去を要請したにもかかわらず勧誘が長時間に及んでいることなどを根拠に事業者と協議をしたところ、事業者もセンターの問題提起を受け入れ、契約の全面解約に応じました。 |
住居の修繕に関するトラブル解決の難しさは、「契約の締結」という目に見えない意思表示の合致に基づいて、目に見える「修繕工事」が既成事実として進行していくところにあります。私たちは目に見える修繕工事を目の当たりにするとその現実に引きずられてしまい、例え契約内容に過誤があることに気付いても「ここまで進めばもうどうにもならない」と諦めることが多いようです。 今回の相談の場合、協議の席における事業者の姿勢は、「工事が完了しているのに、いまさら契約締結のあり方などを議論して何の意味があるのですか」というものでした。その主張の根底には「既成事実が契約意思に優先する」という発想が感じられますが、これは本末転倒だと思いますので、話の内容が少し固くなりますが、今回は分かっているようで分かりづらい「契約とその取消し」ということをテーマに話しを進めることとします。 契約は、原則として、相対立する申込みの意思表示と承諾の意思表示の合致で成立します。例えば「おばちゃん、このパンちょうだい」「あいよ、105円だよ」という会話でこのパンの売買契約は成立し、その契約の効果としてパンの受け渡しと金銭の授受が行われることになります。契約はいったん合法的に成立すると法的拘束力(約束違反したら裁判所に訴えてよいということ)が生じますが、契約を構成する要素としての意思表示は、法律で定める一定の要件の下に取り消すことができます。つまり、契約を取り消すということは、その契約を構成する要素としての申込み又は承諾の意思表示を取り消すことにほかなりません。 当センターが相談者から契約トラブルに関する相談を受けた場合、上記のことを念頭におきながら次の順序で検討していきます。
1. まず、相談者が制限能力者(あるいはこれに準じる状態)に該当するか否かの確認を行います。これに該当する場合は、民法の規定に基づいて契約を取り消すことができるとき(例えば未成年者)と、契約そのものが無効になるのではないかと推定できるときがあります(「意思能力」の有無の問題)。
2. 1) の確認後、特定商取引法が適用できる契約であるかどうかを検討し、該当するときはクーリング・オフの可能性を探ります。この法律ではクーリング・オフの対象となる五つの特定商取引(訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引)が定められています。
3. 特定商取引法が適用される契約ではあっても、期間徒過などでクーリング・オフができないことがあります。しかしその場合でも、この法律で禁止している「不実の告知」又は「故意に事実を告げない行為」が存在するときは、この契約を取り消すことができます。
4. 特定商取引法で解決を図ることができない場合は、消費者契約法を適用して契約を取り消すことができないかを検討することになります。消費者契約法には「不実の告知」、「断定的判断の提供」、「不利益事実の不告知」、「不退去」及び「退去妨害」という五つの取消要件が定められています。
以上、当センターでよく使う法律について種々の取消要件について紹介しましたが(民法の「詐欺・強迫」については省略しています)、今回のテーマで重要なことはただ一つ、「契約の取消し」というのは、特定商取引法、消費者契約法、民法と適用する法律は異なっても、すべて「契約を構成する要素としての申込み又は承諾の意思表示を取り消すことによって行う」ということです。 なお、クーリング・オフというのは、何らの瑕疵なく成立した契約を、一定期間に限り無条件で消滅させる制度ですから、契約の取消しという考え方とは別のものです。 |
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