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相談事例集 |
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■相談事例51: 真相は藪の中
最近、心当たりのない高価な寝具の契約について信販会社から催告書が送付されてきた。まったく記憶になかったので信販会社から契約書を取り寄せて確認したところ、半年ほど前(相談者が20歳と6ヶ月になった頃)にフトンなどの高価な寝具を2回にわたって購入したことになっていた(合計で150万円)。当時、高卒後他県で派遣の仕事をしており、アパートは会社借り上げでフトン付きだった。クレジット契約書に記載されている携帯電話の番号も、押印されている印鑑も私が使用していたものと違っている。納得できないので支払いたくない。
(20歳代 男性) |
とりあえず、契約したと主張している業者と信販会社に対して、契約した事実がないことを書面で主張するように助言しました。 その後、センターが業者や信販会社とやりとりした結果、判明した内容を、相談者、業者及び信販会社ごとに箇条書きにすると次のようになります(以下「契約書」というのは「クレジット契約書」を指します。)。 (相談者) 1)信販会社からこの契約の確認の電話を受けた記憶がない、 2)契約書に署名した記憶がない、 3)契約書に記載されている携帯電話の番号が違う、 4)契約書に押印されている印影が自分の使用しているものと違う、 5)当時住んでいた会社借り上げのアパートの名称はローマ字で記載されているが、契約書では漢字で記載されている、 6)契約書の実家の住所欄には町村合併前の旧住所が記載されている、 7)商品を受け取っていない、 8)従業員に一度も会ったことがなく、室内の清掃などしてもらったことはない、などです。 一方、業者の主張は次の通りです。 1)2件の契約書の筆跡は同一人物が作成したとしか思えず、相談者が作成して送付してきた通知書の筆跡と契約書の筆跡は酷似しており、同一人物の筆跡と判断している、 2)アパートの表記が違うにせよ、相談者はこのアパートに住んでいたことを認めている、 3)相談者は契約書を作成した記憶がないと主張しているが、契約書に記載されている生年月日、住所、銀行口座などの個人情報はすべて相談者しか知り得ないものばかりであり、相談者以外の第三者の存在を想定するのはかえって不自然である、 4)最初の契約を交わした後、当社従業員が3時間かけて相談者の住居の大掃除をしてやっている、 5)当社営業担当が、相談者に確認の電話をしている、 6)携帯電話の件については、当時、相談者が携帯電話を持っていないということだったので、費用は相談者が負担するということで、当社従業員が自らの身分証明書でプリペイド式の携帯電話をコンビニエンスストアで購入し相談者に渡した、ということです。 最後に信販会社ですが、電話による担当者の見解として、「契約書は、形式的な外観は整っているので、相談者の過去の病歴に脳疾患などがあったことが客観的に証明されない限り請求していかざるを得ない」ということでした。 |
契約当事者の主張がともに正しいということになれば、真相は藪の中としかいいようがないことになります。この相談は現在のところまだ契約当事者の歩み寄りがみられず、解決に至っていませんが、解決の道筋は次のようになるかと思います。 まず契約(取引)ですが、申込みと承諾という相対立する二つの意思表示の合致によって成立します。具体的には、「おばちゃん、このパン頂戴。」「あいよ、105円だよ」というパン屋の店先の会話に尽きます。 ところがこの相談では、相談者は自分の意思表示(前記の例でいえば「おばちゃん、このパン頂戴」に相当する部分)が存在しない、だから契約は存在しないと主張しています。 一方、業者は、クレジット契約書の記載内容及びその周辺に関する客観的要件が整っているので相談者は契約当事者に違いないと主張しているのであり、信販会社の担当者もこのような前提に立ったうえで、契約内容が無効になる新たな事実を出して欲しい、と相談者に提案していることになります。 相談者の思いとしては、申し込んでいないのに申し込んだはずだと決めつけられるのは大変業腹なことです。しかし、申し込んでいないことを証明するというのも案外難しいことなのです。 業者は、動産取引に適用される外観法理に添った考え方を主張しているように受け止めることもできますが、このようなケースに適用があるものか疑問です。 解決には、公的機関の助力が必要になりますが、珍しい相談でもあり、他にも同じ思いをされている消費者がおられるのではないかと思い、あえて取り上げてみました。 |
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