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相談事例集 |
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■相談事例59: 高齢者の契約に潜むもの
3年前から訪問販売で白蟻駆除サービスや床下換気扇取付けなど次々に契約をしてしまった(106万円)。契約に至った経緯は覚えていないが他にも契約があり、合わせると全部で520万円になる。すべて現金で払ったが契約書はない。解約したい。
(80歳代 女性) |
1級建築士に調査を依頼したところ、「過剰で詐欺的な工事である」との評価書が提出された。特定商取引法上の契約書も交付されていない可能性が強まったため、契約の解除を申し出たところ、この事業者は、「建築士の評価書は信用できない」と反論した。しかし、センターで交渉の結果、106万のうち70万円を返金することで双方の合意が成立しました。 |
この相談は、高齢者の契約トラブルの典型例ともいえるものです。高齢者トラブルの共通点は、 1)契約当時の記憶が定かではないこと、 2)巨額の契約金を現金で支払っていることが多いこと、 3)自宅に一人でいる時などに勧誘され、断り切れずに契約していること、 4)一度契約すると複数の事業者に狙われ、次々販売の被害にあっていること、 5)紛失したりして法定書面類(特定商取引法や割賦販売法関係)が見当たらないことが多く、契約内容もわかりにくいことなどです。 昨年5月、埼玉県富士見市で認知症の高齢姉妹(当時80歳と78歳)が、200万円にも満たない住宅リフォーム工事に、5千万円(うち現金4千300万円)を支払っていたという事件が報道され、日本中が騒然となったことがあります。 この報道以来、県内でも高齢者の契約トラブルが関心を呼ぶようになりましたが、高齢者が狙われる理由として次の点を挙げておきます。
1. 老後の蓄えがあることが推定できる反面、健康への不安と孤独があり、セールスマンにとって高齢者は接触しやすい存在なのです(好みの話題は、”孫”と”健康”と”趣味”)。
2. 核家族化が進み、高齢者夫婦世帯、あるいは高齢者の単身世帯が増え、高齢者のみでは、自宅で一人でいる時、長時間または強引に勧誘されると、気力・判断力の衰えなどから事業者の要求を拒否することが困難である(三世代世帯の崩壊に伴う高齢者被害の増加)。
3. 欧米先進国では100年ほどかかって徐々に高齢化が進んだためリタイア後の人生設計が公的な社会保障制度などで確立されているのに対し、日本では戦後60年ほどの間に急速に高齢化が進んだため、人生80年時代に60歳でリタイアした場合の残る20年(人生の4分の1)について経済的にも安心してくらせる準備は十分とは言えないこと(日本は欧米世界の2倍のスピードで高齢化が進んでいる。2005年9月現在で総人口に占める65歳以上の割合はおよそ 20%。1950年当時はおよそ5%)。
以上のことから、多くの高齢者は家や健康、将来の生活設計などに不安を抱き、悪質な業者のターゲットになるのです。更に、次々販売を伴っているときは、老年痴呆(アルツハイマー病、認知症)を疑う必要があります。次々販売の場合、対象商品は家屋のリフォーム、高級呉服その他多種多様の高額商品にまたがり、支払いは現金、クレジットを問いませんから、いずれ社会生活に支障を来します。というより、支払いに行き詰まって家族に相談したことから、トラブルの全貌が明らかになることがほとんどです。 高齢者を抱えるご家庭ではすでにお気づきのことと思いますが、高齢者は「意識はしっかりしているが、記憶が持続しない」という特徴があります。したがって、後日、事業者と交渉した時に「いや、お父さん(お母さん)はしっかりしておられましたよ」と反論され、二の句を告げない思いをされた方も多いのではないでしょうか。 この高齢者の特徴が、問題解決を困難にしているのです。介護保険のサービスを受けるなど、判断力に不安があれば前もって専門病院で診てもらい、診断書を準備しておけば、事業者との交渉の際、客観的な資料として活用できます。「ご本人の同意が得られれば」の話ですが。より重度のときは「成年後見制度」の活用ということもあり得ます。 譬えが適切ではないかもしれませんが、小学6年生程度の知的水準しかない成人が、契約代金として何百万円もの現金を複数回にわたって支払っている場合、このような契約は非難されるべきものでしょうか。仮に非難されるべきものとして、誰が一番非難されるべきなのでしょうか。契約の相手方?その支払った本人?あるいは身近にいる家族?あるいはそのような情況を漫然と許している社会? 高齢者の契約トラブルを解決するには、このようなことについて一つひとつ道筋をつけていく必要があります。 |
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