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相談事例集 |
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■相談事例60: いわゆる「呉服販売商法」に潜むもの
一人暮らしの母は、10ヶ月前、ひ孫の宮参りの祝着を契約したのがきっかけで、展示会等で勧められるまま、計16件、870万円を超える契約をしていることが分かった。医師の診断ではアルツハイマー病とのことだった。4〜5年前から物忘れや言動が気にはなっていた。他に訪問販売やSF商法で布団や浄水器を契約していた。総額で1000万円を超すが解約できないか。
(50歳代 女性) |
診断書を添え、書面で契約無効とクレジットや契約書面の不備による解除を申し出たところ、呉服類は16件のうち最初の契約と支払済みの件、商品を紛失している件等4件以外は解除となった。また、2年前に訪問販売で契約した浄水器は既払金の放棄、SF商法で契約した布団については販売会社が倒産していたが、信販会社と既払金放棄で解約となった。他に、別会社から訪問販売で契約した布団2件については無条件解約となり、既払金も返金され830万円余が救済された。 |
最近、問題商法として「呉服販売商法」がクローズアップされています。その特徴は、次のとおりです。
1. 被害者のほとんどは60代以上の女性であり、夫に内緒というケースが多いこと。 2. 特定の販売店による高額商品の次々販売が行われるため契約金額が高額になること (1000万円を超すことも度々みられます)。 3. 売り込みは展示会や温泉旅行などの機会を利用したいわゆるアポイントメントセールスのテクニックが駆使されること。 4. 被害者には判断力の低下が認められ、症状の軽重はあるもののアルツハイマー病や認知症の診断を下される人が多いこと。 5. 普段、与信業務のみで契約実務に直接関与しない信販会社の職員が、展示会などの販売現場に直接立ち会ってその場でクレジット契約の与信をするケースが多いこと。
日本の法律では、判断力のない人が締結した契約は、明文の規定はありませんが無効とされています。 では、判断力がないことはないが、平均的な社会人に比べると劣るという人が契約した場合、その契約の効果はどうなるのでしょうか。これが「呉服販売商法」を解決する際の最大の問題点なのです。 判断力が落ちる原因としては、加齢現象、アルツハイマー病、認知症などが考えられますが、特にアルツハイマー病は、日本では認知症の原因のおおよそ65%を占める進行性の中枢神経性の病気とされています。 アルツハイマー病は、年齢とともに多くなり、いつとはなしに発病しますが、その特徴は大別すると「記憶障害があること」と「意識がしっかりしていること」です。 したがって、販売店がこの相矛盾する(と思われる)特質を有する消費者と契約するときは、「売買契約及びクレジット契約の署名を終えたら即座にクレジット契約の与信をする」必要があります。時間を置くと、高額の買い物をしたことを後悔したり、契約したことそのものを忘れてしまうおそれがあるからです。 販売目的を隠したアポイントメントセールスは禁止されていますが、展示会で販売する場合は、普通、店舗販売に当たり、特定商取引法が適用されないことが多いことから(例外はあります)、クーリング・オフ期間(8日)を考慮する必要がありません。即時かつ確定的にクレジット契約は成立することになります。 クレジット契約は立替払契約という形態を伴いますが、その手続は、普段、販売店側が信販会社を代行して行いますので、両者を外観上区分するのは困難です。 しかも、立替払契約書は売買契約の成立を前提として作成されますが、消費者にとって立替払契約は、高額商品を買うときに不可欠であるばかりでなく立替払契約と売買契約とは相互依存関係にあります。 自ら割賦販売をするだけの資力のない零細な業者でも立替払契約なら高額商品の販売が可能ですし、信販会社は契約を増やすことによって収益を増大させることができるわけですから、販売店と信販会社とは共存共栄関係にあります。 しかし、信販会社は契約の勧誘から締結まで実務には何も関与せず、後日、消費者に対して契約締結の有無を電話で確認し与信するということしかしません。 にもかかわらず、「呉服販売商法」においては、普段、クレジット契約の締結手続に直接関与しない信販会社の職員が直接立ち会うことが多いところに、この商法の問題点が象徴的に示唆されていることになります。 |
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